短歌同人「ポストシェアハウス」

青松輝と鈴木えてによる短歌同人「ポストシェアハウス」のブログ。

ポストシェアハウス第1号一首評(2) 手をつないで大きな虚に、平らかな声で互ひをだめにしあつて 岐阜亮司

手をつないで大きな虚に、平らかな声で互ひをだめにしあつて
/「感情の訓練」岐阜亮司


まず句切れとしては、手をつないで/大きな虚に、/平らかな/声で互ひを/だめにしあ
つて と読むことができる。「虚」は「きょ」とも「うつろ」とも読めるが、字足らずよりも字余りの
方が許容されやすいと思われるので「うつろ」と読んで 2 句目が 8 音と解釈することにする。
登場人物は二人ということが「互ひ」から読み取れる。その関係性は実り多いものではな
いらしい。「互ひをだめにしあつて」からは、共依存的に二人でだめな方へ落ちてゆくイメージを
喚起する。しかし共依存は抜け出し難いものであり、また二人だけの甘い王国でもある。だか
ら二人は手をつなぐ。しかし語り手はそれを俯瞰し、それが虚しいものでしかないことに気づい
ている。
「平らかな声」というのがこの歌のおもしろいところである。共依存とは、互いがときに愛を
向け、かつ憎しみを向け、その揺さぶりの中でお互いに抜け出せなくなる状態である。しかしこ
の歌ではそれぞれが平らかな声、つまり感情の乗らない声で語り合っている。これは語り手だ
けではなく、相手もこの関係性が虚しいものだと気づいているからだ。しかしそれが分かっていて離れられない。通常の共依存よりも強い結びつきで、だからこそより虚しさがある。そして互
いにそれを諦観しているところに、この歌の余韻がある。


評:鈴木えて