短歌同人「ポストシェアハウス」

青松輝と鈴木えてによる短歌同人「ポストシェアハウス」のブログ。

ポストシェアハウス第1号一首評(4) 飲み下すポカリスエットが甘すぎて私まだ何も失ってない 坂本歩実

飲み下すポカリスエットが甘すぎて私まだ何も失ってない
/「御伽噺出会わなければ」坂本歩実
「私まだ何も失ってない」という強い言い切りが印象的な一首である。その言い切りを導くのは「飲み下すポカリスエットが甘すぎて」という上の句。「飲み下す」には「飲む」や「飲み干す」にはない、本当は飲みたくないが飲み込むというニュアンスが含まれる。これも下の句と同様に意志を感じさせ、イメージが共鳴している。
そして飲み下すのはポカリスエットであり、それが甘すぎるという。(ポカリスエットが甘く感じるときは体調が悪いとき、あるいは風邪を引いたときはアクエリアスよりポカリスエットがいい、という俗説があるが、それをどこまで読み込んでいいものか不明である。ただ、下の句から感じる強さと体調の悪さはそぐわないので今回は検討から外すことにする。)ポカリスエットはものすごく甘い飲み物ではないので、この甘さは味覚そのものというよりは「甘さ」すなわち弱さや甘えた態度に対して敏感になり、それを疎ましく思っている「私」の心情を反映していると読むことができる。
さて、ここで再度下の句の検討に戻ろう。「まだ何も失ってない」というのは自分の社会に揉まれていない幼さを自覚すると同時に、今まで失ってきたと思ったものは大したものではないと自分を鼓舞する意味でもあるだろう。それは自分の弱さを厭い、自分から何かを奪おうとするものに対して立ち上がる姿勢である。ポカリスエットは回復のイメージと繋がるものであり、それも何度でも立ち上がる強さと結びつく。
ざらしで吹きっさらしの肺である戦って勝つために生まれた
「行け広野へと」服部真里子
この歌を思い出させる、強い主体像を描き出している一首である。


評:鈴木えて

 


ポカリスエットと体調に関しては公式サイトには記述がないので参考にしないでください。